岡村 愛奈(仮名)

学生・22歳

ユニバの思い出

実に一周間ぶりのお日記である。

 

日記を書いていなかったここしばらくのあいだに、大阪に住む友人の家にみんなでお泊りして、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行った。すごい楽しかった。

 

すごい楽しかったと同時に、自分がすごい楽しんでいたという事実にちょっと驚いている。自分の性格は遊園地にかなり不向きだと思っていたからだ。

 

文字の書いてあるTシャツが苦手だ。「Have A Nice Day!」と書いてあるTシャツを着ているあいだは、私は何をしていようと「Have A Nice Day!」と訴え続けている。飯を食っていようと、ぼんやりして改札に止められていようと、誰かを本気で叱りつけていようと、その間にも私は「Have A Nice Day! の人」から逃れることはできない、その居心地の悪さ。(このあいだの日記で「ISHIDAKI(石抱き)」って書いてあるTシャツを買ってたけどあれは突き抜けてどうでもよすぎるから良いのだ)

ギャグ漫画で登場人物が困り果てていたり怒ったりしている様子がポップでコミカルに描かれたりする場面、普段ぜんぜん楽しく読んでるけど、自分だったらたまったものではないなと思う。たとえ当人が主観的にどんなに辛かろうと、深刻に怒りを表明していようと、ひとたびギャグ漫画のコミカルな記号に収めてしまえば、それは問答無用で楽しいお話を飾る愉快な一コマになってしまうという残酷さ。動物の映像に人間が可愛らしい感じのアテレコを付けるやつもこれと同じような嫌さがある。

全校集会で生徒指導の先生が登下校中の態度の注意などをいかにも深刻な口調で生徒に語り聞かせて、その後ろで全然関係ない他の先生たちも一緒になって困った顔をしてウンウン頷いて、皆して深刻な空気を作り上げに行って自らそのパーツに成り下がりに行っているときの醜悪な感じも未だに鮮明に覚えている。

 

人の気持ちや振る舞いが外から記号的に規定されるというか、そういう状況がどうやらすごく苦手だ。自分を規定する俯瞰的な視線を意識したとたん、歩き方を忘れたようにすべての振る舞いがぎこちなくなる。

そういう意味では、「楽しむための場所」そのものである遊園地に行くというのはまさにもう記号の中に身投げするような行為であって、たとえば何かとんでもない事件が起こって来園客が皆楽しむどころではない空気になったりとか、そこまでいかずとも一瞬ふと我に返って冷静になったりでもすることがあったとたん、遊園地という場と心の内とがものすごい勢いで摩擦を起こして奏でる不協和音を想像すると恐ろしくて仕方がなく、はたしてこのお泊りUSJ会を私は楽しむことができるのか、実は不安で不安で仕方なかった。

しかも今回、私以外全員が当日のためにキャラクターの耳のカチューシャを持参していたことが当日判明した。私も着用を勧められたが、気が気ではなかった。おいおいおい、そんな楽しげなもん付けちまって、喧嘩でも起こったり小隕石でも降ってきたりしたらどうするんだ、その楽しげアイテムを身につけたまま罵声を浴びせあったり、悲鳴を上げて逃げまどったりするのか、そんな姿だいぶ滑稽だぞ、あるいはかなぐり捨てたりするのか、それはそれでだぞ、と。

 

ところが蓋を開けてみたらどうだ、めちゃくちゃ楽しかった。アトラクションで多分いちばん叫んでたし、耳もノリノリでずーっと付けてたし、最後はみんなで指ハート作って自撮りとかしてた。

もしかすると、私も多少は大人になって、今日は何としてでも楽しい感じでやってやるぜとある程度開き直れるようになったのかもしれない。外の世界に対する自分の内面の強固さをあんまりあてにしなくなったというか、わざわざ張り合うほどの元気がなくなってきたのかもしれない。しかしそれよりも、まず安心できる友人たちと一緒だったことと、なによりそんなしみったれたことを考えている間もないほど暴力的なまでに驚きと楽しさに溢れたUSJという場のおかげだろう。

全てが客を楽しませるために作られている場、というのは来る前はプレッシャーでしかなかったが、実際に訪れてみるとそのすごみは想像をはるかに超えていた。ことニューヨークエリアやハリー・ポッターのエリアの街並みは作りこみがすごくて、散歩しているだけで何時間も楽しく過ごせそうだったし、新しいマリオモチーフのエリアの景色なんてもう文字通りこの世のものとは思えなかったし、各種アトラクションもとても魅力的だった。ハリーに連れられて魔法の箒でホグワーツの敷地をグワングワン飛び回りながら自意識がどうとか考えている余裕はなかった。

スーパー・ニンテンドー・ワールド。写真に撮ったら微妙にピントが合わず、かえって本当にCGグラフィックみたいな質感になった

本当に、自分が普段いかに自分の内面世界を過信して、狭い見識の中で思い上がっていたを思い知らされた。こんなに力の入った隙のない暴力的な楽しさの前では、私のみみっちい自意識などひとたまりもないのだ。本当に行けてよかった。これからはいろんな楽しそうなことを、恥ずかしがったり変な意地を張ったりせず積極的に楽しみにいきたい。

 

帰ってからUSJの思い出を書くぞ書くぞとウダウダしているうちに丸1週間日記をほったらかしてしまった。結局思い出というよりほぼ自分の内面の話に終始してしまったし、この一週間もうちょっと他にもあったが、疲れたのでもうこのへんにしておく。これからは毎日ちゃっちゃと書くぞ。